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大分地方裁判所 昭和38年(わ)25号 判決 1963年3月29日

被告人 甲

主文

被告人を懲役四年以上六年以下に処する。

未決勾留日数のうち五〇日を右本刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、二〇才未満の少年であつて、本籍地の中学校二年生在学当時、窃盗の非行によつて、教護院たる鹿児島学園に収容せられ、同学園収容中、更に恐喝の非行をなして、昭和三三年一〇月二二日鹿児島家庭裁判所において初等少年院送致の保護処分を受け、初等少年院たる佐世保少年院に収容せられ、昭和三四年一〇月同少年院を退院した後も更に窃盗、傷害等の非行を重ね、昭和三五年三月四日鹿児島家庭裁判所において中等少年院送致の保護処分を受け、その頃から約六月間中等少年院たる人吉農芸学院に、昭和三五年一〇月から約一年一〇月間特別少年院たる大分少年院に各入院する等中学校在学当時から大分少年院退院に至るまでの間殆んど少年保護矯正施設に収容せられ、昭和三七年八月二八日、大分少年院を退院した後は、肩書住居の保護会「新光の家」に起居し大分市城崎町の堤建設株式会社のトラツク運転助手として働いていたものであるが、

第一、

一、昭和三七年九月二三日、大分市坊ヶ小路七組の笠木文雄方において、同人所有の現金七、〇〇〇円及びトランジスターラジオ一台(時価一万円相当)及び笠木洋子所有のネツクレス(時価三、〇〇〇円相当)を窃取し、

二、同年一〇月七日、同市中島九条二丁目五六二〇番地五の伊藤秀敏方において、同人保管の現金三、五六〇円及び同人所有のズボン三枚(時価合計一万五、〇〇〇円相当)を窃取し、

三、同月一四日、同市長浜町三五八八番地の大分市立長浜幼稚園内において、同園園長工藤政喜保管の現金約一、二〇〇円及びラジオ一台ほか雑品約七〇点(時価合計約三、八四〇円相当)を窃取し、

四、同月二四日、同市岩田町三丁目一七組の足穂正人方において、同人所有の現金二万五、〇〇〇円及び男物背広上下一着ほか三点(時価合計二万円相当)を窃取し、

五、同日、同市大道町五丁目二組の帆玉喬方において、同人所有のワイシヤツ一枚ほか二点(時価合計約五、〇〇〇円相当)を窃取し、

六、同年一一月五日、都城市栄町四七九六番地四の大浦秋吉方において、同人所有の現金五、〇〇〇円及びズボン二枚(時価合計四、〇〇〇円相当)並びに大浦幸子所有の防寒コートほか一点(時価合計一万二、〇〇〇円相当)を窃取し、

七、同月六日、同市中原町四〇五四番地一の斎藤実平方において、同人所有の現金二、〇〇〇円及び背広上下一着ほか六点(時価合計二万二、二〇〇円相当)を窃取し、

八、同月七日、同市上東町二一番地の八木米利方において、同人所有の現金二、〇〇〇円を窃取し、

九、同日、同市上東町四五四九番地六の田中忠義方において、同人所有の現金一四〇円を窃取し、

一〇、同日、同市中原町一七二二番地の新原澄雄方において、同人所有の現金凡そ三〇〇円を窃取し、

一一、同月八日、同市中原町四〇九〇番地の前田治方において、同人所有の靴下一足(時価三五〇円相当)を窃取し、

一二、同日、同市南郡元町一丁目三、〇〇〇番地の斎藤武吉方屋内において、窃盗の目的をもつて金品を物色中、外出していた同人の妻斎藤イサヱが帰宅したので、逮捕を恐れて逃走したため、窃盗の目的を遂げず、

一三、松山春夫と共謀のうえ、同年一二月一八日、大分市新大道町一丁目国鉄動力車労働組合大分地方本部事務所において、佐藤孝所有の現金二、九〇〇円を窃取し、

一四、右松山と共謀のうえ、同日同市新大道町一丁目国鉄物資部新大道配給所において、同所主任工藤秋生保管のクリスマスケーキ三個ほか食品類一三一点(時価合計四、五八二円相当)を窃取し、

第二、同年一二月二二日午後三時過ぎごろ、家人不在中の、同市花津留八組の是永正夫方において、座敷六畳の間及び寝室にあつた同人所有の背広外衣類二点(時価合計一万一、八〇〇円相当)を窃取し、逃走しようとしたところ、所用のため表玄関を開けて同家に入つて来た右正夫の義妹たる高校二年生A女(当一六才)が、屋内にいる被告人に気付かず玄関内側から施錠したうえ、炊事場に赴いたのを知るや、自己の逃走を容易にするため、同女の所持する玄関の合鍵を奪い、且つ同女からも金品を強取しようと決意し、同家炊事場で炊事をしていた同女の背後に忍び寄つていきなり抱きつき、右腕で同女の頸部を扼し、「声を出したら殺すぞ」等と脅迫しながら、座敷六畳の間まで約七メートル引きずつたうえ、その場に仰向けに引き倒し、同所の押込から取り出した日の丸国旗(昭和三八年押第一六号の二)、ネツカチーフ(同押号の三)、タオル(同押号の四)、ベビーシヤツ(同押号の五)各一枚を用い、同女に猿ぐつわをはめ、目隠しをする等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、金品を強取しようとしたが、その際、倒れている同女の姿態を見てにわかに劣情を催し、同女を強姦しようと決意し、そのパンテイを引きずり下ろし、馬乗りとなつて強いて姦淫しようとしたものの、同女が必死に抵抗しながら、機を見て、「お母さんが来る」と言つたため、発見されることを恐れて、前記衣類のほか、同女の懐中からこぼれ落ちた現金五〇円を強取したのみで逃走し、姦淫の目的を遂げなかつたが、前記頸部絞扼により、同女に対し、全治まで約四日間の加療を要する頸部絞扼創を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為のうち、一ないし一一の窃盗の点は刑法第二三五条に、一二の窃盗未遂の点は同法第二四三条、第二三五条に、一三及び一四の窃盗の点は同法第六〇条、第二三五条に、判示第二の所為のうち、強盗致傷の点は、同法第二四〇条前段に、強盗強姦未遂の点は同法第二四三条、第二四一条前段にそれぞれ該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条により犯情の重いと認める強盗致傷罪の刑によつて処断すべく、所定刑のうち有期懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第二の強盗致傷罪の刑につき同法第一四条の制限のもとに法定の加重をし、なお犯罪の情状に憫諒すべきものがあるので、同法第六六条、第七一条、第六八条第三号により酌量減軽をした刑期範囲内で処断すべきこととなるが、被告人は少年法第二条所定の少年であるから、同法第五二条第一項を適用したうえ、被告人を懲役四年以上六年以下に処し、また刑法第二一条に従い未決勾留日数のうち五〇日を右本刑に算入し、訴訟費用は、被告人が貧困のため納付することのできないことが明らかであるから、刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤野英一 山口繁 多加喜悦男)

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